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ストマックバンド

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【ブログ小説】童貞花火 -最終章-

 

 

 

第一章

 

第二章

 

第三章 

 

 


Fireworks!



ep.15 fireworks

 

花火は綺麗に夜空に咲いた。

サヤちゃんは感動していた。初めてこんなきれいな場所で見たって。

それはそうだろう。この日のために何回、何年掛けて下見したと思ってるんだ。

確かに決して大きな花火大会ではないけれど、本当に綺麗だったし、夢が叶ったというか、やりきったというか、なにかわからない充実感がボクを支配していた。

 

花火を見ながら、サヤちゃんがボクの太ももに手を置いてきた。なるほど、そうくるタイプね。

しかしボクは根っからの童貞だから、手をつなぐのも含め、そういうボディタッチは”付き合ってから”と決めていた。

でも振り払うのも失礼だと思って、それとなく足を動かして手を避けた。でもサヤちゃんは折れなかったから、結局ボクの太ももは最後まで温かかった。

 

次が最後の花火です。というアナウンス。

あっという間だった。それまでの花火の内容はほとんど覚えていない。

 

クライマックスの一気に打ち上がる花火を見ていると、すぐ近くからもうひとつの花火が上がった。

「私が付き合おうって言ったら付き合う?」

ボクの隣で打ち上がった言葉の花火。

聞こえなかったフリをしようと思って、黙っていたら、もう一度。

「私が付き合おうって言ったら付き合う?」

 

『それは、彼氏さんに悪いからムリだよ』

線香花火のような小さい声でそう言ったら、クライマックスの花火も、隣で上がった花火も終わってた。

 

ボクを励ますかのように、会場は大きな拍手で包まれていた。 

 

ep.16 手首

 

お客さんが一斉に帰りだす。

ボクらも帰ろうかって車に向かって歩こうとしたら、サヤちゃんが言った。

「手を繋いでくれないと迷子になる」

 

どういうつもりで言っているんだろう。童貞だからわからない。

だけどボクの中では手を繋いだり、キスをしたり、そういうのは全部、付き合ってからすることだからって、断った。

 

「迷子になる」

だけどサヤちゃんはそう言って聞かない。

 

『じゃあ、手首持つのでもいい?』

ボクが出せる条件がそれだった。手首ならセーフ。ホントはダメだけど、苦肉の策。我ながらナイスアイデアだと思った。諸葛亮だな。

 

納得はしてない顔で、しぶしぶ頷いたから、ボクは彼女の手首を握った。細くて折れそうだった。

 

手首を握って河川敷を歩く。傍から見たら連行しているみたいだよな。

多分サヤちゃんもそう思ったんだろう。やっぱり嫌だって言った。

 

ep.17 一本づつ

 

ボクの中のルールが少しだけ緩まった。

『じゃあ、小指だけ』

小指だけならセーフだ。まだ手は握ったうちに入らない。

そう言って差し出した小指をつかむサヤちゃん。

並んで歩きながら、一本づつ、掴まれる指が増える。

薬指、中指、人差し指…

そこからはすぐだった。気づいたら恋人繋ぎをしていた。ルールを破ってしまった。

何が諸葛亮だよ。誰がどう見ても彼女のほうが諸葛亮孔明に相応しかった。

 

初めての恋人繋ぎは手汗を気にしていたことしか覚えていない。

途中でどちらからでもなく手を離して、腕を組まれていた。

もうどうにでもなれ。

 

 

ep.18 渋滞

 

喉がカラカラだった。

頭もボーッとして、酔っ払ってるみたいだった。

車を運転して、彼女の家まで送る途中、国道は花火帰りの車で渋滞していた。

 

助手席から声がした。

「私、親には泊まるかもって言ってあるから、別にいいよ」 

なにがいいんだよ。バカなのか。うん、この諸葛亮孔明は絶対バカだ。

それが誘っている言葉だってことは理解できたけど、どういうつもりで言ってるのか、やっぱりボクにはわからなかった。もうコレ以上混乱させないでほしいのに。

 

「どうする?」

 

どうするじゃない。どうもしないよ。

パパ、彼氏、花火、恋人繋ぎ。今日だけで入力された情報が多すぎて、処理が追いつかずフリーズしかけのボクはもう、すぐにでも家に帰りたかった。

 

絞り出した『親御さんも心配しとってやろうから、送るわ。』という言葉。

それから彼女を送り届けるまで、会話は、なかった。

 

 

ep19. エピローグ

 

気づけば9月になっていて、サヤちゃんとのメールは、まだ少しだけ続いていた。

「また近いうちに帰るから、おいしいパフェが食べられるお店を探しといて」

デートをやりきった気持ちでハイになっていたのか、懲りないボクはそんなメールに、任せといて!って返せるくらいに浮かれていた。

 

ある日友達が家に来て、飲みに行こうと誘ってくれた。

まだ未成年だからお酒は飲めないけれど、まあいいかってついていった先は、カウンター越しに女の人が接客してくれる、地元のスナック。

ボクの相手をしてくれた店員さんは少し年上で聞き上手だったから、何気なくおいしいパフェを探している話をしたら、花火大会の話になった。

 

誰かに話を聞いてほしくて、あの日起こったことを話したら、店員さんは怒った。

「あんた、それはキープにされてるで。悔しくないんか?パフェは断りなさい」って。

急なタメ口にも気づかないくらい、びっくりした。

地元用の都合のいい存在になっているという。ハッとした。その通りだと思った。

 

でも、いいよって言ってしまったって伝えたら、気が変わったって言えばいいって。

言われるがままにメールを作った。情けないけど、会ったばかりのお姉さんが、教祖に見えた。

 

返事はすぐに来た。「何かあったの?」って。

お姉さんは、私が電話してもいい?もうこの子と会えなくてもいい?ってボクに聞く。

ボクは花火大会のあとからずっと、そうしたかったんだと思って、頷いた。

 

そこからはすぐだった。

お姉さんはボクの携帯でサヤちゃんに電話をかけて、私が彼女だから、もう電話しないでって言ってくれた。

電話越しのサヤちゃんがなんて言ったのかは聞こえなかったけれど、

手元に戻ってきた携帯から、彼女の連絡先は消えていた。

 

一気飲みしたノンアルコールカクテルは、少しだけ火薬の匂いがしたような気がした。

 

 

 

 

おわり。

 

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