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ストマックバンド

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【ブログ小説】童貞花火 -第二章-

 

 

 


 

第一章 

 

 

Fireworks

 

ep.6 電話

 

話す内容、言葉を何度も練習した。親友にサヤちゃんの代わりをしてもらって、いろんなパターンのシミュレーションをした。

正直びびってたし、かけたくない気持ちもあったけど、この勢いは止めたらアカンって。もう親友に背中を押されなくてもそう思えた。

これまでアイツに押され続けた背中には、勢いがついていた。

 

自分の部屋に戻って、携帯に打った番号とメモを何度も見返して、通話ボタンを押す。

コールが鳴る。出ないかもしれない。向こうはこっちの番号を知らないから。ボクは知らない番号だったら出ないし。

 

出てほしい気持ちと、少しだけ出ないでほしい気持ちで葛藤してる間に、コールはもう10回を超えていて、やっぱりダメだったか…ってホッとしかけたとき、下ろした携帯から「もしもし?」って聞こえた。懐かしい声だった。

 

『も、もしもし??サヤちゃんの携帯ですか?ボク、小学校の時の同級生の…』

声は震えてなかったと思う。

「えっ!!久しぶり!!!どうしたの急に!?」

一言喋ったら、もう大丈夫だった。

そこからはお互いの現状とか、電話に至った今までの経緯とか、おじいちゃんへの感謝とか、そんなのを喋ったと思う。ストーカーまがいの行為も笑って許してくれた。

小学校ぶりの会話は童心に帰った気がして、話題は尽きなかった。

花火大会は、まだ言わなかった。

そういえば散々シミュレーションした内容は、本番では全然役にたたなかったな。

 

気づけば1時間位喋っていて、さすがにもう切らないとって思ったけれど、ボクにはアドレスを聞くっていう使命があったことを思い出した。

次にもう一回こんな風に喋れるって保証はないんだし、童貞のボクはやっぱり電話よりメールのほうが得意だから、アドレスはなんとしても手に入れなければならない。

 

女の子に電話でアドレスを聞くなんてことは初めての経験で、すごくドキドキしたけど、意外と簡単に教えてくれるもんで、まあ電話してるんだから当たり前か。

サヤちゃんに続いて、アルファベットと数字を復唱してる自分がなんか滑稽に思えた。

 

 電話を切った後、早速メールを送って、返ってきた彼女からの初メールは保護フォルダに入れた。

そのあと枕に顔を埋めて、めちゃくちゃニヤニヤした。

そして気づけば朝だった。親友にはまた夜に話そう。やったぞって。もしかしたら壁に耳を当てて聞いてくれてたかもしれないけど。

 

ep.7 ケロロ軍曹

 

 毎日のようにメールをした。高校時代にメル友だけはたくさんいたから、メールの技術には自信があった。

まずは趣味から。どうやらサヤちゃんは相変わらずオタクらしい。ケロロ軍曹涼宮ハルヒの憂鬱というアニメが好きだそう。

アニメについて語る彼女の文面は見るからにすごく嬉しそうで、中学の時ならバカにしていたはずのオタク文化が、新鮮だった。

他にも電話で聞けなかったことをいっぱい聞いた。

彼氏がいるかどうかは聞けなかったけど、遠回しにリサーチをかけた結果、いないという結論に達した。

 

単純なボクはすぐさまゲオに行って、ケロロ軍曹のDVDをたくさん借りてきた。

ケロロ軍曹は思ったより面白くなくて、何度も寝落ちしたし、苦痛だった。これのなにが面白いんだろうって思った。

でも彼女と同じ作品を共有して、メールで感想を伝えるという作業がとてもうれしくて、その為だけに見続けた。

感想は正直に伝えたかって?もちろん「すごく面白かったよ」って。 

 

他にも自分の好きな小説を教えあって、そのリストをもとに図書館で三国志の小説を借りた。案の定面白くなくて、どうしても全部読めなかったから、感想は三國無双(ゲーム)の知識で話した。

彼女にボクがオススメした小説は、多分読んでないだろうから、お互い様ってことで。

 

ep.8 作戦勝ち

 

そんなことが1ヶ月くらい続いて、梅雨の季節になった。

最終的な目標は8月の花火大会だから、早めに動かないと誰かに先を越されるかもしれない。そう思ったボクは、ついに花火大会に誘う決意をした。

 

誘うときはメールじゃなくて電話。これは親友の意見と一致した。

電話はこれまでに何回かしていたけど、この時は1回目の時と同じくらい緊張した。

 

『もしお盆に実家へ帰ってきてるなら、せっかくやし一緒に花火見に行かへん?』

『帰省のついでに』と言うことで、自分がデートに誘っている、それに加えてサヤちゃんが好きだという部分をぼかす作戦。

結果的にこの作戦が功を奏したのかどうかはわからないけど、サヤちゃんの返事は、ボクの顔をまたもや枕に埋めて、ニヤニヤさせるようなものだった。

 

それから8月まではあっという間だった。

テンションを途切れさせないように、ケロロ軍曹を見終わった後は”らき☆すた”や”銀魂”を見て、サヤちゃんの機嫌を取り続けた。嫌ではなかった。目標がもうすぐ達成できる。あわよくば””彼女””もできるという思いがボクを昂ぶらせていた。

 

 

ep.9 妹

 

 

花火大会の2週間前、サヤちゃんから電話があった。嫌な予感がする。

それは花火大会に妹を連れて行ってもいい?という内容で、これにボクは露骨に落ち込んだ。

二人きりで行きたかったし、サヤちゃんもそのつもりだと思っていたから。そしてそもそも妹がいたことを知らなかった。隠し事をされてたような気も少しあったと思う。

 

なんだか急に温度差ができた気がして、裏切られた気がして、

それだったらボクは行かないから、妹さんと2人で行ってあげて、と伝えた。

情けないけど、自分にできる精一杯の強がり。そして少しのやけくそ。

 

そう言うとサヤちゃんは怒った。なんで怒ってるのかわからなかった。

「誰が最初に誘ってきたの!?私と2人で行きたいなら、そうやって言えばいいんじゃないの??」

(一体なんなんだよ、何て言えば正解なんだ…)

小学生のときから今まで、彼女の怒っているところを見たことがなくて、動揺したし、頭が真っ白になった。

 

『いやでも、それだったらサヤちゃんの妹さんがかわいそう…』

「妹にはお母さんと行くように伝えるから。」

 

しばらくの沈黙の後、ボクはこのとき初めて、自分の気持ちを正直に言えた気がした。

実際は言わされたんだけど。

 

 

『ごめん、ボクはサヤちゃんと2人で一緒に行きたい。』

「わかった。じゃあ2人で行こう。」

 

 

ep.10 ビフォーアフター

 

一度ケンカしたからか、距離がより一層近くなった気がして、花火大会が余計に待ち遠しくなった。

親友と名古屋に行って、Spinsで服を買った。ピンクのポロシャツにネクタイ。今思うとかなりひどいコーディネートだけど、当時はそれがオシャレだと思っていた。

生まれて初めて美容院にも行った。今までは美容院に行くのが恥ずかしくて、自分でバリカンを使って丸坊主にしていたから、何もかもが新鮮で、コンプレックスだった天然パーマを縮毛矯正で隠したら、鏡に映る自分は誰よりもイケているように見えた。

 

いよいよお盆に突入し、ボクは実家に帰り、車を洗車してワックスもかけた。親戚が集まっていたけれど、何を喋ったかも覚えてないくらいに浮かれていた。

もちろんメールも欠かさずに、最後まで機嫌を損ねないようにと、持てる技術の全てを使って、サヤちゃんを迎え入れる準備をした。いよいよ明日は花火大会。

夢が叶う。

 

 

第三章へつづく

 

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